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納豆が水戸の代名詞であるワケ ~老舗ブランドを立ち上げた男の、人生をかけた挑戦~

納豆のまち 水戸で「納豆条例」制定

みなさんは、「水戸」といわれて、まず何を思い浮かべますか?
 
水戸といえば「水戸黄門」。
水戸といえば「梅」。

そして
水戸といえば「納豆」。
誰もが思い浮かべるであろう、水戸の名産品です。

水戸の代名詞「納豆」

そんな水戸市で、令和4年6月、「水戸市納豆の消費拡大に関する条例」、いわゆる納豆条例が制定されました!

   水戸市納豆の消費拡大に関する条例
 (目的)
第1条 この条例は、納豆が健康の増進に効果的な食品であること及び本市の代表的な特産品として広く認知されていることを踏まえ、納豆の積極的な消費拡大を図ることで、市内産業の活性化及び市民の健康の増進に寄与することを目的とする。
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 (納豆の日の制定)
第6条 市は、納豆を活用した健康の増進に関する市民の関心及び理解を深めるとともに、事業者及び市民と連携した取組を推進するため、納豆の日を定める。
2 納豆の日は、7月10日とする。

水戸市ホームページ「水戸市納豆の消費拡大に関する条例を制定しました」から抜粋

これまでも「なっとう」の語呂にあわせて、毎年7月10日には、市や関係団体が協力して納豆をPRしてきました。
そのような中、納豆条例に基づき、ついに7月10日が水戸市独自の記念日になりました。

そもそもなぜ、水戸で納豆なのか。
その背景には、納豆商品化に賭けた、先人たちのねばり強い挑戦がありました。

強き天狗のごとく

商品化される前は、自分の家で納豆をつくり、食べるのが一般的でした。

その常識をくつがえしたのは、安政元(1854)年、水戸に生まれた笹沼 清左衛門(ささぬま せいざえもん)という人物です。

清左衛門は、ある文書に「江戸で好んで食べるものに糸引き納豆というものあり」という一節を見つけた際に、納豆を水戸の名物として売り出すことをひらめきました。

清左衛門は、納豆づくりの先進地であった仙台地方で納豆製造技術を学び、その成果を水戸に持ち帰りました。
修行先でともに働いていた宮城県出身の阿部 寅吉は、ねばり強く修行に打ち込む清左衛門の姿に感銘をうけ、彼とともに水戸で納豆をつくることを決意したそうです。

こうして、清左衛門たちは、明治20(1887)年、水戸市柵町で納豆づくりをはじめました。

第二次世界大戦前まで、納豆づくりに最適な時期は、「秋の彼岸から春の彼岸まで」と言われていました。
この時期に米の裏作で栽培した大豆が収穫されていたことにくわえ、納豆づくりに適した気温や湿度になるためです。

しかし、これは、「納豆はこの期間にしかつくれない」ということの裏返しでもありました。

また、当時は、納豆づくりには欠かせない、温度や湿度などを調節できる設備がありませんでした。

そこで清左衛門は、工場内にレンガと石で築いた保温設備「室(むろ)」を建設。この「室」のおかげで納豆の大量生産が可能となり、同時に、一年中いつでも納豆をつくれるようになったのです。

清左衛門は、生産した納豆に「天狗納豆」と名付けました。
天狗を採用したのは、水戸の地に由緒深い天狗党の名にちなんでいます。
また、「天狗のように強く負けないように」という理由もあるそうです。

水戸鉄道開通。全国に知られる存在へ

大量生産した納豆をどのようにして流通させるか。それが次の課題でした。
そこで清左衛門が注目したのは、鉄道の開通だったのです。

明治22(1889)年、水戸鉄道・水戸-小山間が開通。
これを記念して、清左衛門は、水戸駅で“土産品”としての納豆を売り出しました。

その後、水戸偕楽園の梅が開花する時期には、観梅列車の運行がスタートし、東京方面からの観光客でにぎわいました。

開業当初の水戸駅

柔らかくねばりの強い小粒大豆のおいしさと、わらつと(※)独特の風味が好評で、その評判は、観光客の口コミにより全国に広まっていきました。
※わらつと(藁苞)…稲わらを束ねて包むようにしたもの。

こうして、納豆は水戸の代名詞になるほど、全国的に有名になっていったのです。

スーパーに並んでいる納豆だけがすべてじゃない

清左衛門ら先人たちのたゆまぬ努力により、水戸の名産品としての地位を確立した納豆。
次々と納豆メーカーが設立され、現在、市内では、4社の納豆メーカーが製造・販売しています。

さて、みなさんは、普段どんな納豆を食べていますか?

「納豆」と一口に言っても、色々な種類の納豆があります。
お土産品として知られているわらつと納豆、小粒納豆に大粒納豆、黒豆を使った納豆、そぼろ納豆、干し納豆……

下の画像は、市内の4社で販売している納豆です。

市内の4社の納豆を並べてみた

水戸にこんなにバリエーション豊かな納豆商品があるって、知っていましたか?
(ちなみに、これでもまだ一部です!)

どのメーカーも、素材にこだわり、丹精を込めてつくっています。
ごく一部の地域で生産される特殊な大豆を使ったもの、茨城県産の大豆にこだわったもの、タレに一工夫くわえたもの……
商品によって、特徴もさまざまです。

納豆条例をきっかけに、水戸にお住まいの方、これから水戸に来てくださる方に、もっと水戸の納豆を身近に感じてほしい、たくさん食べてほしい。

今後、このアカウントでは、水戸の納豆の魅力を深掘りし、みなさんにお伝えしていきます。
ぜひ、お気に入りの納豆を見つけていただけたら嬉しいです。 


【参考文献】

  • 水戸市史 下巻(一)

  • 常陽藝文 1988年11月号(通巻66号)

  • これで分かった 水戸納豆の謎/岡村 青(東京新聞出版局)

  • 江戸時代人づくり風土記8/社団法人 農山漁村文化協会

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